B型肝炎とワクチン

理美容師のためのB型肝炎とそのワクチンの基礎知識

橋本理美容商事株式会社

1.血中ウイルス感染症について

 理美容業界のご友人や知人に肝臓疾患を患っている方はおられませんか? 「肝臓の病気はお酒の飲み過ぎ」と思われるかもしれませんが、そのほとんどが「肝炎ウイルス」による感染症です。わが国の主なウイルス性肝炎には、「A型肝炎」、「B型肝炎」、「C型肝炎」、が挙げられます。
 「A型肝炎」は、A型肝炎ウイルスに汚染された飲み水や食物により感染する「経口感染」であり、衛生環境が整備されていない発展途上国で頻繁に発生しますが、現在、わが国では大きな流行はありません。
 「B型肝炎」と「C型肝炎」は血液や体液に含まれたこれらのウイルスにより感染する感染症であり、「血中ウイルス感染症」と呼ばれています。これらは、「慢性肝炎」や「肝がん」に進行することもあり、最悪の場合は「劇症肝炎」という極めて危険な病態になります。
 医療従事者(医科、歯科)は、患者さんの血液や体液に触れる可能性があるため、それぞれの業務においてこれらの病原体からの防護策を施しています。
 理美容師のみなさんの手指に、ごく小さい傷や“あかぎれ”などがあれば、お客様の顔剃りの際の微量の出血や、剥がれ落ちた微細な組織片などからの感染の可能性があります。このような状況からは、理美容師のみなさんの職業感染のリスクは医療従事者と同等かそれ以上と推測できます。
 とくにB型肝炎の原因ウイルスである「HBV」は他のウイルスに比べて「感染力」と「消毒薬に対する耐性」が強く、また、「物の表面に付着たHBVは、1週間以上、生きている」という学術報告もあります。
 したがって、理美容師のみなさんが業務上で最も注意を要する血中ウイルス感染症はB型肝炎であると言えます。

2.B型肝炎の転帰(病気の進行)

 B型肝炎は、その原因ウイルスであるHBVが血液や体液を介して肝臓に感染し、炎症を引き起こす病気です。感染した人の年齢や健康状態などによって急性症状が現れる「顕性感染(急性肝炎)」、症状が現れないまま治癒する「不顕性感染」、生涯にわたり感染が維持する「持続感染」など様々な転帰があります。(図1)
 急性肝炎の場合、「強い倦怠感」、「黄疸」などの症状が現れ、入院加療によって1~3か月で治癒します。ただし、急性肝炎の内、2%の人は「劇症肝炎」という病態に陥り、この場合、70%の確率で死に至ります。
 一方、不顕性感染の場合は、発症せず自然に治癒しますが、血液中に「HBs抗体」という感染歴が残ります。
 急性肝炎と不顕性感染の一部の人は、「キャリア」と呼ばれる「持続感染者」となり、他人に感染させる可能性があります。不顕性の場合は感染者であるとの自覚がないため、感染を拡大させるリスクはさらに高いと言えます。

B型肝炎の転帰

図1

3.B型肝炎ワクチンの必要性

 主な血中ウイルス感染症には、「B型肝炎」、「C型肝炎」、「HIV感染症」(発症すればエイズ)が挙げられます。
 これらの感染症の原因ウイルスの中で、「HBV」が最も感染力が強く、ウイルスへの暴露(濃厚な接触)1回あたりの感染リスクは、「C型肝炎ウイルス」の25倍、「HIV」の150倍にも及びます。「HBV」は、消毒薬に対する耐性も強く、したがってB型肝炎が最も注意を要する感染症であると言えます。
 わが国においては、確率的に102人に1名がB型肝炎のキャリアであり、当然この確率は理美容サロンのお客様も変わりありません。また、理美容師自身もキャリアである可能性があります。つまり、相互に感染する可能性があり、医療界では、術者・患者さん間のこのような感染を「交差感染」と呼んで対策を講じています。
 なお、B型肝炎にはワクチンが存在します。医療界では、B型肝炎ワクチンを医療従事者の教育課程で接種し、臨床現場に出た後の感染を防いでいます。また、2016年度、わが国では、新生児に対する公費による接種が開始されており、この施策は「国民皆ワクチン(こくみんかいわくちん)」と呼ばれています。
 理美容師の高い感染リスクからは、B型肝炎ワクチンの接種は必要であり、理美容界全体の課題でもあると思われます。

4.B型肝炎ワクチンの接種スケジュール

 B型肝炎ワクチンの接種は、「過去にB型肝炎に感染した経験の無い人」と「現在、B型肝炎に感染していない人」に対して行います。このため、接種対象者に対しては、まず抗体検査が必要です。その後の接種スケジュールは、一定の期間を開けて3回実施し、最後に抗体検査をして抗体獲得の有無を確認します。(図2)
 3回接種は面倒ですが、3回を要する理由はこのワクチンが「不活化ワクチン」であり、抗体を作る能力の持続性が弱いためです。ワクチンには、生きたウイルスを原料にした「生ワクチン」がありますが、不活化ワクチンは、感染力を失わせたウイルスから作ったものであり、安全性が高いワクチンです。
 なお、3回後の抗体検査の結果、抗体が確認できない人が約10%の確率で発生することがあります。この場合は、もう1回の追加接種が必要です。

B型肝炎ワクチンの接種の概要

図2

5.経年による抗体価の低下をどう考えるか

 ワクチンの接種により「HBs抗体」と言う抗体が獲得できますが、約3年間で、ほとんどの人の抗体は50%以下になります。
 追加接種が必要か否かは議論が分かれるところであり、一定の抗体価以下になった職員に対して追加接種を行う医療機関と、不要とする医療機関があります。
 CDC(アメリカ疾病予防管理局)の、2回にわたるガイドラインで、また「日本環境感染学会」のガイドライン(第1版から第3版まで)で、いずれも「追加接種は必要なく、抗体が陰性化してもB型肝炎を発症することはない。」との見解を示しています。ヨーロッパでも同様の見解の文献があります。
 いずれにしても、少なくても一度は接種を受け、抗体を獲得することが必要です。

6.おわりに

 B型肝炎ワクチンは、間隔を開けた3回の接種と抗体検査で抗体の獲得までに7か月の期間と、ある程度の費用を要します。
 お仕事をしながらの接種は困難と思われるかもしれませんが、B型肝炎に罹患して急性肝炎が発症した場合、入院加療による数か月の休職を余儀なくされることから業務に対する影響は甚大です。また、妊娠前の女性の場合は出生児への感染、すなわち「母子感染」はさらに深刻です。
 HBVに暴露する可能性のある職種として、お客様とご自身のために、接種についてのご一考をお勧めいたします。