• ホーム
  • 手指衛生とその消毒剤について

手指衛生とその消毒剤について

 コロナ禍を機に、清潔についてのお客様の認識はたいへん高くなっています。そこで弊社では、歯科技工界における感染対策の普及に注力されている大阪大学委託講師、兼広島大学客員講師の大西正和先生に「手指衛生」に関する文献をご提供いただきました。手指衛生の励行により、お客様と皆様ご自身を感染症から守りましょう。       

橋本理美容商事株式会社

 

感染対策の基本「手指衛生」について学ぼう 

                                                      大西 正和

 皆様は、お仕事の際に、手指が細菌やウイルスにより汚染されていることを意識しておられますか?
 流水と石鹸による「衛生的手洗い」や「擦式手指(さっしきしゅし)消毒剤」により、手指から有機物(皮膚の老廃物など)や微生物などを除去し清潔に保つことを「手指衛生(しゅしえいせい)」と言います。
 ご承知のとおり、新型コロナ感染者の激増により、2020年4月、全国に緊急事態宣言が発出されました。この頃から、公的施設やショッピングモールの出入口などには、手指を消毒するための「擦式手指消毒剤」が用意されるようになりました。しかし、「手指衛生」は、20年以上前から、WHO(世界保健機構)やCDC(米国疾病予防局)などがガイドライン等で啓発を重ねてきた感染対策の基本です。
 本稿では、アルコール系消毒剤の分類と、手指衛生に最も有効な「擦式手指消毒剤」についてお話します。

 

  1. アルコール類の分類(下図参照)
     「アルコール類」は、「エタノール(エチルアルコール)」と「メタノール(メチルアルコール)」に大別されます。

 前者の「エタノール」は、濃度により「無水エタノール」と「消毒用エタノール」に分類されます。「無水エタノール」は濃度が99.5%以上のものを言いますが、殺菌効果はほとんどありません。消毒用として有効なエタノールは濃度76.9~81.4%(日本薬局方基準)の「消毒用エタノール」です。
 一方、後者の「メタノール」は、主に工業界などで使用される化学物質であり、引火性、毒性が強く消毒には使えません。私たちが小学生のころ、理科の実験で使っていたアルコールランプもメタノールを燃料にしています。

 

  1. 手指消毒用エタノール
     「手指消毒用エタノール」は、消毒用エタノールにグリセリンなどの手荒れ防止剤を添加した「擦式手指消毒剤」です。「衛生的手洗い」に比べて数々の特長があり、「衛生的手洗い」で手荒れを起こしやすい人は手指消毒用エタノールの使用をお勧めします。
     ただし、手指消毒用エタノールは手に刷り込んで使うため、流水のような洗浄効果はありませんので、手指が目に見えて汚れている場合は「衛生的手洗い」が必要です。
     なお、手指消毒用エタノールを購入される際には、濃度が上記の9~81.4%であることを確認してください。手指消毒用エタノールの一部の製品には、エタノールを溶剤としてこの基準以下の濃度で添加しているものがあり、この製品にはエタノールが持つ殺菌効果は期待できません。
  2. 非アルコール系手指消毒剤
     衛生的手洗いや手指消毒用エタノールで手荒れが生じやすい人や、アルコール過敏症の人には、殺菌成分としてエタノール以外の薬剤を使った非アルコール系手指消毒剤の使用を推奨します。
     これは、薬局等で販売されており、殺菌成分として「ベンゼト二ウム塩化物」という低水準消毒剤が使われています。なお、この薬剤は「SARS-Cov-2」(新型コロナウイルス)にも有効です1)2)
     ただし、ベンゼト二ウム塩化物でも、まれに過敏症がありますので、使用にあたっては、事前に手の甲などの一部に塗布するパッチテストを実施してください。
     なお、この製品も含めて一部の非アルコール系手指消毒剤の成分表示には、添加物として「フェノキシエタノール」が記載されています。しかし、「フェノキシエタノール」は「アルコール類」ではなく、この製品の保存剤(防腐剤)として添加されている天然由来の成分です。
  3. おわりに
     手指に「手荒れ」や「湿疹」が発生すると、怪我をしている手指と同様に感染リスクが高まる可能性があります。このため、医療現場では殺菌効果と保湿効果を併せ持った擦式手指消毒剤の使用が主流となっています。擦式手指消毒剤は、「衛生的手洗い」に比べて、「簡便」、「手軽」、「シンクの無いところでも使える」、「エタノールの殺菌効果が持続する」などの長所があります。
     ただし、手荒れには個人差がありますので、いろいろな方法や薬剤などを試され、健康で清潔な手指の状態を維持するよう努めてください。

 

【引用文献】
1)独立行政法人製品評価技術基盤機構.新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第2弾).2020.5.29.
2)経済産業省.ニュースリリース.新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第2弾).2020.5.29.